第112章

ただ死ぬ前に千雪の最後の姿を見られなかった寂しさが、目を閉じた後の永遠の後悔となった。おばあさんが亡くなった時、可哀想な千雪は病床で救命処置を受けていて、もう少しで、おばあさんと一緒に逝くところだった。

「千雪、おばあさんは療養院でとても良く過ごしているよ。君の病気が良くなったら、おばあさんに会いに連れて行ってあげる」彼はおばあさんの死の知らせが、この虚弱な女性をもう一度地獄に突き落とすことをとても恐れていた。彼女はつい先ほど死の淵から戻ってきたばかりなのだから。

「うん」千雪は彼の腕の中で丸くなり、小さな猫のように静かにしていた。

空から雪が降ってきた。粒状の雪が一つ一つ、襟元に落ちて、骨身に染みるほど痛かった。

冷泉辰彦はアパートの入り口に立ち、寒風の中で立ちすくみ、中に入ることができなかった。彼の手は上がり、門に向かって伸びたが、また力なく下がった。

ここには、もう彼の小さな女性はいない。彼女は去ってしまった、何の痕跡も残さずに。

彼は彼女が血だまりの中に横たわっていたあの光景を決して忘れることができなかった。床一面の血が、彼女のドレスの裾を赤く染め、彼女は目を固く閉じ、彼の腕の中で横たわり、まるで息をしていないようだった。

彼は彼女の柔らかくぐったりした体を抱き、彼女の冷たい頬に顔を寄せ、初めて心を抉られるような痛みを感じた。血まみれで、かつてない恐怖感に捕らわれ、全身の血液さえも凍りついた。

すべては彼の過ちだった。彼が彼女を事故に遭わせ、彼が彼女を少しずつ衰えさせ、彼が彼女を命の危険にさらした。彼女が子供を流産した瞬間、彼は自分がどれほど彼女を傷つけたかを知った。

毎日彼はガラスの壁越しに、集中治療室に横たわる彼女を見ることしかできなかった。酸素マスクをつけ、顔は青白く、呼吸は弱々しかった。彼はとても恐れていた、次の瞬間に彼女の呼吸が止まってしまうのではないかと。

彼はとても恐れていた、彼女がいなくなれば、彼はもう怒りに任せて「小さな女よ、また逃げたら、首をへし折るぞ!」と叫ぶことができなくなるのではないかと。

彼はとても恐れていた、もう二度と彼女に「ごめん」と言う機会がなくなるのではないかと。