第112章

ただ死ぬ前に千雪の最後の姿を見られなかった寂しさが、目を閉じた後の永遠の後悔となった。おばあさんが亡くなった時、可哀想な千雪は病床で救命処置を受けていて、もう少しで、おばあさんと一緒に逝くところだった。

「千雪、おばあさんは療養院でとても良く過ごしているよ。君の病気が良くなったら、おばあさんに会いに連れて行ってあげる」彼はおばあさんの死の知らせが、この虚弱な女性をもう一度地獄に突き落とすことをとても恐れていた。彼女はつい先ほど死の淵から戻ってきたばかりなのだから。

「うん」千雪は彼の腕の中で丸くなり、小さな猫のように静かにしていた。

空から雪が降ってきた。粒状の雪が一つ一つ、襟元に落ちて、骨身に染みるほど痛かった。

冷泉辰彦はアパートの入り口に立ち、寒風の中で立ちすくみ、中に入ることができなかった。彼の手は上がり、門に向かって伸びたが、また力なく下がった。