千雪は彼女の手を引いて止めた。「いいえ、大丈夫よ。ただ少し落ち着きたいだけ。鎮静剤はある?少し休みたいの、いい?」
「あるわ、取ってくるわ」千雪が普通に話せるのを見て、沙苗は落ち着きを取り戻し、急いで鎮静剤を取りに走った。
千雪は一錠飲むと、ベッドに横になって眠った。
沙苗は静かに部屋を出て、ようやく事の不思議さに気づいた。今のところ、この千雪は確かにあの井上千雪に間違いない。そして冷泉さんの千雪への心配りを見ると、二人の関係もほぼ確かなものだった。
ただ、千雪は何も覚えていないようだ。あの交通事故のせいだろうか?
神戸市役所。
「ブルブル」携帯電話の振動が鳴り止まず、机の表面と共鳴して静かなオフィス全体に響き渡っていた。
秘書が大量の書類を抱えて入ってきて、藤原則安の承認を待っていた。携帯が鳴り続けるのを見て、彼は注意せざるを得なかった。「お電話が鳴っていますよ」