雲井絢音の顔色が、ようやく少し変わった。「おばあさまの言いたいことは、辰浩が狼を家に招き入れたということですか?」傍らの手は、こっそりと握りしめられていた。
「その言葉は、あなた自身が言ったのよ。そのような自覚があるなら結構だわ。狼になれずに、食べられる羊になってしまわないように。今、私たち冷泉家があなたに居場所を与えているのは、辰浩と彼の子どものためよ。あなたは自分の立場を過大評価しないほうがいいわ!」
「それで?」雲井絢音の顔色はすでにひどく悪く、言葉には微かな皮肉が混じっていた。
「おとなしく冷泉家にいて辰浩の子どもを産みなさい。二人目の山本鉄七を作り出さないで、天地の高さも知らずに父の仇を討とうなどと妄想しないこと。もしあなたが冷泉家の人たちの一本の髪にでも触れようものなら、ただではすまないわよ!」