第165章

入り口まで歩いた雲井絢音は急いで振り返り、男性の方へ歩み寄った。「辰彦、大丈夫?大事ない?」そう言いながら、手に持っていた書類を置き、急いで彼の薬を探し始めた。

冷泉辰彦は咳き込み続け、彼女に構わず、ただ大きな手で空拳を唇に当て、止まらない咳に苦しんでいた。

「辰彦」雲井絢音は薬の瓶を開け、三粒取り出して急いで差し出した。「早く飲んで、きっとまた薬を飲み忘れたのね。医者の忠告を忘れたの?会社に来るのはいいけど、必ず時間通りに薬を飲んで、時間通りに休んで、毎日の勤務時間は八時間を超えてはダメだって」

冷泉辰彦は本来聞く気はなかったが、ひどい咳のため、仕方なく彼女の手から薬と水を受け取り、頭を後ろに傾けて飲み込んだ。

雲井絢音はこの時すでに近づいて、彼の背中を優しく撫でていた。「少し休みましょう、たぶん先ほどの仕事で疲れたのね」