第169章

言い終わると、彼女は群衆を押しのけて、急いで走り去り、彼に決然とした背中を見せた。

「千雪!」冷泉辰彦は椅子に背を預け、挫折の声を上げ、ついに千雪がまだ彼を完全に信頼していないことを理解した。

千雪が角を曲がったところで、突然、冷泉辰彦を見舞いに来た冷泉家の人たちと鉢合わせになった。先頭には白髪の冷泉大奥様がおり、雲井絢音と麗由が左右から支え、急いだ表情をしていた。傍らには同じく焦った表情の冷泉様がいて、大股で病室に向かい、千雪とぶつかりそうになった。

「千雪?」冷泉敏陽は急に足を止め、うつむいて小走りに歩いていた素色の服の女性を呼び止めた。そして遠くの椅子に座り、この方向を焦りながら見つめている息子を見て、心の中で少し喜んだ。辰彦が本当に千雪を救うためだったのだ。