「薬はまだある?」
伊藤諾が問い返した。
私はバッグから薬の瓶を取り出し、彼に見せた。
彼はうなずいた。「今なら手を下せるのか?」
「何をためらうことがあるの!彼が先に非道なことをしたのよ。人は、自分のした行為に対して代償を払わなければならないでしょう?」
伊藤諾は長い間私を見つめていた。
「送っていこうか?」
「結構よ!車があるから!」
私は手の中の車のキーを振り、道端に停めてある小さなBMWのドアを開けた……
「彼が買ってくれたのか?」
「そうよ!」
「そんなに良くしてくれるのに、本当に手を下せるのか?」
「何が『そんなに良くしてくれる』よ?小さなBMW一台だけよ、これらはもともと私のものだったのよ!」
私は手を振って伊藤諾に別れを告げ、自分で車を運転して帰った。
なぜかわからないが、あの夜、田中遠三が葉山夢愛を抱きしめているのを見てから。