「薬はまだある?」
伊藤諾が問い返した。
私はバッグから薬の瓶を取り出し、彼に見せた。
彼はうなずいた。「今なら手を下せるのか?」
「何をためらうことがあるの!彼が先に非道なことをしたのよ。人は、自分のした行為に対して代償を払わなければならないでしょう?」
伊藤諾は長い間私を見つめていた。
「送っていこうか?」
「結構よ!車があるから!」
私は手の中の車のキーを振り、道端に停めてある小さなBMWのドアを開けた……
「彼が買ってくれたのか?」
「そうよ!」
「そんなに良くしてくれるのに、本当に手を下せるのか?」
「何が『そんなに良くしてくれる』よ?小さなBMW一台だけよ、これらはもともと私のものだったのよ!」
私は手を振って伊藤諾に別れを告げ、自分で車を運転して帰った。
なぜかわからないが、あの夜、田中遠三が葉山夢愛を抱きしめているのを見てから。
私は彼に対するすべての信頼を失ってしまった。
私は彼が早く罪を認めて法の裁きを受けることだけを考えていた。
実際、私はこの裁判で彼が逃れられるとは思っていなかった。
少なくとも数年の刑を言い渡されると思っていた……
彼が刑務所に入った後、臻一株式会社を引き継ぐ方法を考え始めていたほどだ。
時間はあっという間に翌朝になった。
私は6時過ぎに目が覚めた。
この時、葉山夢愛はまだ寝ているようで、田中遠三の寝室のドアも閉まったままだった。彼はまだ寝ているか、すでに出かけたのだろうと思った。
あの書道作品が彼の手元にあることを思い出し、彼が気づく前に取り替えようと思った。
私は書斎に入り、あの書道作品を探し回った。
しかし、書斎中を探しても、ゴミ箱まで調べても、何も見つからなかった。
もしかして田中遠三がこの作品を隠したのだろうか?
なぜ隠す必要があるのだろう?
少し考え込んでいると、背後から足音が聞こえた。
私はハッと振り返ると、葉山夢愛が上がってきたのを見つけた。
「小雲、何をしているの?」
葉山夢愛は好奇心を持って尋ねた。
「あ、何でもないわ。朝は暇だから、何か読む本を探していただけ。」
「小雲、今日は田中兄さんの裁判の日よ。あなたは少しも心配じゃないの?」
葉山夢愛の目には濃い心配の色が浮かんでいた。