何という不運なことだろう、伊藤諾が初めて会社に来たその日に、田中遠三にばったり出くわしてしまった。
しかし、怒りで頭が熱くなっていた私は、田中遠三を恐れることなく、むしろ彼に飛びかかって口論したいとさえ思った。
だが、私が行動を起こす前に、伊藤諾が私を引き止めた。
田中遠三の視線は、私の顔からゆっくりと伊藤諾へと移った。
その瞬間、二人の男性が目を合わせ、空気中には明らかに火薬の匂いが漂い、雰囲気が重苦しくなった。
その後、田中遠三は顔を上げて私を見た。
「松岡小雲、会社に貴客が来たのに、なぜこそこそ隠れて、私のオフィスに案内しないんだ?」
私が口を開く前に、伊藤諾が話し始めた。
「田中遠三、私は祐仁に会いに来ただけで、あなたと会う時間はない。行くぞ!」
伊藤諾は私の手を引いて立ち去ろうとした。