第177章 百人の女性も彼女には敵わない

何という不運なことだろう、伊藤諾が初めて会社に来たその日に、田中遠三にばったり出くわしてしまった。

しかし、怒りで頭が熱くなっていた私は、田中遠三を恐れることなく、むしろ彼に飛びかかって口論したいとさえ思った。

だが、私が行動を起こす前に、伊藤諾が私を引き止めた。

田中遠三の視線は、私の顔からゆっくりと伊藤諾へと移った。

その瞬間、二人の男性が目を合わせ、空気中には明らかに火薬の匂いが漂い、雰囲気が重苦しくなった。

その後、田中遠三は顔を上げて私を見た。

「松岡小雲、会社に貴客が来たのに、なぜこそこそ隠れて、私のオフィスに案内しないんだ?」

私が口を開く前に、伊藤諾が話し始めた。

「田中遠三、私は祐仁に会いに来ただけで、あなたと会う時間はない。行くぞ!」

伊藤諾は私の手を引いて立ち去ろうとした。