「私が行って懲らしめようか?」
伊藤諾は目で、こそこそと盗撮していた記者を一瞥した。
私は頭を振って彼を止めた。「いいよ、放っておいて!」
「わかった、行こう!」
彼はルームキーを取り、私を引っ張ってエレベーターに乗った。
元々は夜明けまで彼に付き合うと約束していた私。
ホテルの部屋に入ると、靴を脱ぎ捨ててすぐにベッドに上がった。
ベッドに伏せるとすぐに眠ってしまった。
本当に疲れていて、まぶたが糊でくっついたようだった。伊藤諾が私を呼んでいるのは聞こえたが、目を開ける力もなかった。
翌朝。
電話の着信音で目が覚めた。ベッドサイドから携帯を手探りで取り、ぼんやりと電話に出た。
「もしもし」と言った途端、温井雅子が怒り出した。
「あなたたち二人、厚かましいわね!私がここで苦労してるのに、二人は楽しんでるのね!」
「ははは!」
私はようやく目が覚め、携帯を持ってベッドの上で一回転した。
「怒らないで怒らないで、よかったら二人ともこっちに来て少し寝ていきなよ、部屋を取ってあげるから?」
「それは当然よ。でも今じゃないわ。あのソファで寝たら体が痛くなったわ、首も凝っちゃった。傷ついた心を癒すために、おいしい食事でもおごってもらわないとね。」
「いいよ、すぐ行くから!」
電話を切ると、伊藤諾が椅子に座っていることに気づいた。彼は壁に頭をもたせかけ、何かを考え込んでいるようだった。
「寝なかったの?」
「眠れなかった!」
「今の状況はどう?」
時間を見ると、すでに午前9時だった。
どうやら私は数時間眠っていたようだ。
この伊藤諾も本当に、私を起こさなかったなんて。
急いで携帯を取り出して確認した。
昨晩の伊藤暁に関するニュースはもう検索トレンドから外れていて、今日新たにトレンド入りしたのは伊藤諾に関するものだった。
伊藤家の次男が重圧の中で就任、医師である彼は社長職を務められるのか?
その後の多くの話題は、伊藤諾を中心に展開されていた。
その中には、二つの情報も……
新任の天藤社長が謎の女性から花を贈られたことと、深夜にホテルに入ったことだ。
どうやら、伊藤諾のこの策は本当に効果的だった。ネットユーザーは新任社長に話題を集中させている。