第227章 彼は過去を探し求めている

田中遠三がもたらした不快感は、すぐに消えたようだった。

病院の入り口で、伊藤諾の顔にはすでに笑顔が戻っていた。

「先に帰って休んで、婚約式をどの日に設定するのがいいか考えてみて!会場のことや、その時の服装をどうするかも考えてみて、それから一緒に相談しましょう!」

私は突然、及川雨子のことを思い出し、良いアイデアが浮かんだ。

「服は自分たちで作りましょう!この数日はお母さんとゆっくり過ごして!プランができたら相談するわ。」

「うん、いいよ!」

伊藤諾は手を伸ばして私の顔に触れ、その後ハグをしてきた。

なぜか、誰かの視線が私を見つめているような気がした。

私が顔を上げると、病院の建物のある階に黒い影が立っており、こちらを見ていた。

伊藤諾と別れた後、彼が入院棟の方へ歩いていくのを見た。