田中遠三がもたらした不快感は、すぐに消えたようだった。
病院の入り口で、伊藤諾の顔にはすでに笑顔が戻っていた。
「先に帰って休んで、婚約式をどの日に設定するのがいいか考えてみて!会場のことや、その時の服装をどうするかも考えてみて、それから一緒に相談しましょう!」
私は突然、及川雨子のことを思い出し、良いアイデアが浮かんだ。
「服は自分たちで作りましょう!この数日はお母さんとゆっくり過ごして!プランができたら相談するわ。」
「うん、いいよ!」
伊藤諾は手を伸ばして私の顔に触れ、その後ハグをしてきた。
なぜか、誰かの視線が私を見つめているような気がした。
私が顔を上げると、病院の建物のある階に黒い影が立っており、こちらを見ていた。
伊藤諾と別れた後、彼が入院棟の方へ歩いていくのを見た。