私はもともと、松岡晴彦と手を組めば、田中遠三を簡単に引きずり下ろせると思っていた。
しかし、事態の展開は私が想像していたほど容易ではなかった。
午後、松岡晴彦は私と別れた後、松岡家に戻った。
その時、私はホテルのレストランに向かった。
伊藤諾から3回も電話があり、ようやく急いで現場に駆けつけた。
個室に入ると、自分が場違いだったことに気づいた。
伊藤お母さんだけだと思っていたのに、入ってみると伊藤家の親戚がたくさん集まっていた。
「あら、こんな大勢いるなんて、なぜ早く言ってくれなかったの?」
伊藤諾は私の肩に手を置いて、
「仕方ないよ、みんな君のことが好きで、会いたがっていたんだ!」
伊藤諾は満面の笑みで、彼も私を家族の親戚に紹介することを喜んでいるようだった。
私には分かった、みんな本当に心から私のことを気に入ってくれていることが。
その温かい笑顔には、純粋な熱意が込められていた。
私の席は伊藤諾の隣だった。
座ると、伊藤諾は私の上着を椅子の背もたれにかけ、テーブルいっぱいの料理を指さして尋ねた。「何が食べたい?手が届かなかったら言ってね。」
伊藤お母さんも笑顔で私を親戚たちに紹介した。
「松岡さんはとても優秀な娘さんよ、伊藤家の福の星なの。今、天藤会社は彼女のおかげで、そうでなければ諾も困っていたわ…」
おそらく、伊藤お母さんの目には、私はとても優秀な女性に映っているのだろう。
彼女の私への賞賛は惜しみなかった。
その間、伊藤諾はただ優しく私を見つめ、時々私の皿に料理を取り分け、小声で急かした。
「早く食べて!」
親戚たちも次々と私を褒めた。
「この子は顔立ちがいいわね、見るからに福のある子だわ!」
「そうそう、まだ嫁に来てないのに、もう幸運を運んできたわ。将来嫁いできたら、どれだけ良いことがあるか分からないわね!」
「ほら、二人はなんて夫婦の相がぴったりなんでしょう。」
伊藤諾はこのような賞賛を聞いて、少し嬉しそうに私の手をぎゅっと握った。
まるで私を手のひらに乗せて大事にしたいといった様子だった。
「祐仁、見てごらん、みんな僕たちを祝福してくれているよ!僕は宝物を手に入れたと思わない?」
彼は私の耳元で小声でささやいた。
私は彼に微笑むだけで答えなかった。