その男は酒臭く、乱暴な手つきで、私を洗面台に押し付け、スカートを引きちぎりそうになった。
私は驚き、一瞬で酔いが覚めた。
必死にもがいていると、男は下品な言葉を浴びせかけてきた。
「みんないないうちに、ここで楽しもうぜ?」
男の身長は私より頭一つ分高かった。
彼の腕から逃れるのは容易ではなかったが、その声が宮田友夫だとわかった。
衝撃と怒りが込み上げた。
「宮田友夫、あなた狂ったの?山田静がここにいるのを知らないの?」
「知ったことか、松岡小雲、俺はずっと前からお前のことが好きだったんだ!」
この男はまるで頭に血が上って、私とあんなことをしようと必死だった。
振り払えないと見るや、私は台の上のガラス瓶を掴み、宮田友夫の頭に思い切り叩きつけた。
バンという音が響いた。
宮田友夫は悲鳴を上げ、手を放した。
私は恐怖で急いで服を整え、洗面所から逃げ出した。
この時、もう個室には戻れなかった。
山田静にどう説明すればいいのか分からなかった。
もし真実を話したら!
山田静は大きなお腹を抱えている。このショックで流産でもしたら大変だ。
それに、こういう事は友情を試すものだ。長年の友情があっても、彼女が少しでも疑いを持てば、今後の関係にヒビが入るだろう。
何度も考えた末、この件は何もなかったことにして、山田静には話さないことにした。
廊下で心を落ち着かせ、十数分後にレストランに戻った。
思いがけないことに、タイミングが悪かった。
宮田友夫は罪悪感からか、どこかに隠れていたのだろう、今になって戻ってきた。
ちょうど私の前後でレストランに入ってきた。
幸い、温井雅子は何も異常に気づいていないようで、山田静と笑いながら、スマホで何かを見ていた。
「祐仁、早く見てよ。山田静が名前を一つ考えたの、私も一つ考えたわ。どっちがいいか選んでみて?」
「ああ、あなたたちが選んだらいいわ!」
私は宮田友夫に近づきたくなくて、遠回りして鈴木誠一の隣に座った。
そのとき、宮田友夫もゆっくりと廊下から出てきて、山田静が気づいた。
「友夫、どうしたの?頭にこんな大きな腫れができてるわよ?」
宮田友夫は恐る恐る私を見て、
「さっき歩いてて不注意で壁にぶつかったんだ。もういい、今日はついてないな。帰るよ。」