私は知っていた、この時間に電話をかけてくるのは、松岡文雄たちしかいないと。
私の心は携帯の着信音とともに締め付けられた。
田中遠三に見破られるのではないかと心配だった。
必死に我慢して電話に出なかった。
幸い、さっきマナーモードにしていた。
振動の音はそれほど目立たず、注意深く聞かなければ気づかれないはずだ。
幸いにも田中遠三は軽く抱きしめただけで、すぐに手を放した。
「行こう!」
「うん、いいよ!」
この場所は本当に人が少ない。
私が田中遠三とフロントに行ったとき、広いロビーには私たち以外の客は誰もいなかった。
私はそっと周りを見回したが、松岡文雄など怪しい人物は見当たらなかった。
チェックインの手続き中、田中遠三はずっと私の手を握っていた。
「お客様、何部屋ご用意しますか?」