手紙は長く、紙は完璧ではなかったが、彼は一文字一文字を丁寧に書いていた。
私は半分読んだところで、熱い涙が溢れ出した。
涙はぽたぽたと紙の上に落ちていった。
手紙を濡らし、文字をにじませ、一面ぼやけてしまった。
これらは田中遠三が私に残した、この世での唯一の痕跡だった。私はそれらを消してしまうわけにはいかなかった。
ティッシュを取り、必死に拭き取ろうとした、水の跡を乾かそうとして。
しかし思わぬ結果になり、拭けば拭くほど文字は滲み、さらには紙まで破れてしまった。
破れた部分は大きな黒い穴となり、まるで今の私の心のようだった。
最後の救済の試みも無駄に終わり、心は絶望に満ちていた。
そのとき、一対の手が伸びてきて、その手紙を取り上げた。
「私は本当にダメね、彼が残した遺書さえ台無しにしてしまった」
「大丈夫、これは画像編集ソフトで修復できるよ。私に任せて、明日までに直しておくから」
「あなたじゃなくて、私がやるわ。返して!」
私は手を伸ばして沢田書人から手紙を取り戻そうとしたが、彼は拒否した。彼は手紙をすべてファイルケースに入れた。
そして自分のバックパックに入れた。
「沢田書人、何をしているの!!」
「小雲、伊藤諾と離婚したんだよね?」
「それは私の問題よ、あなたには関係ないわ!」
「いや、これは私に関係がある。今から、私があなたの面倒を見ることに決めたんだ!」
「何を言ってるの、誰があなたに頼んだわけ?手紙を返して……」
「返すよ、でも……一つ条件がある。私とある場所に行ってくれれば!」
「今はどこにも行きたくないわ!」
「じゃあ、この手紙は全部持って行くよ」
沢田書人は私より年下だが、やはり男性で、身長もある。
私が物を奪おうとしても、彼からは奪えなかった。
私が立ち上がって彼を追いかけようとすると、彼は本当に振り返って出て行った。
「沢田書人、そこで待ちなさい!」
私が追いかけて出たとき、沢田書人はすでに車に乗っていて、運転席から私を見ていた。
「乗りなよ!」
私は数秒間躊躇したが、結局車に乗った。
「沢田書人、あなた変わったわね!」
沢田書人は振り向いて私のシートベルトを締めてくれた。
「どこが変わったの?」
「前はこんなに大胆に私を怒らせようとしなかったわ!」