「旦那様、奥様を起こしに行きましょうか?」
土曜の朝7時、羽柴明彦はいつものように時間通りにダイニングテーブルに座り、コーヒーを飲んでいた。
「いや、いい」
丸一週間、夏目芽依は毎日深夜まで残業し、日中は定時に出勤するだけでなく、彼が帰宅する前に帰ってこようと努めていた。週末にどうして早く起きられるだろうか。
「奥様はさぞお疲れでしょう。この数日、家では何をしていたのですか?」
鈴木ママはキッチンでお粥を盛りながら、その言葉を聞いて一瞬躊躇した。
「鈴木ママ、私がこの数日出かけていたこと、羽柴明彦は何か聞いてきた?」
前日の夜、夏目芽依はみかんの袋を持ってキッチンに入り、皮をむきながら鈴木ママとぽつぽつ会話を交わしていた。
「いいえ、旦那様は何も言いませんでした」鈴木ママは手慣れた様子で野菜を摘み、翌朝の朝食の準備をしていた。「たぶん奥様が出かけていたことをご存知ないのだと思います」