第36章 発表

「このステーキ、とても美味しいわよ、食べてみて」羽柴明彦は切り分けた牛肉をフォークで刺し、夏目芽依の前に差し出した。

夏目芽依は顔を上げて彼を見つめ、意図が分からなかった。

「口を開けて」羽柴明彦の声は信じられないほど優しく、彼女をますます困惑させた。

「もう手が痺れてきたよ」彼が軽く眉をひそめると、夏目芽依は慌てて口を開け、牛肉を飲み込んだ。

ステーキはリトウの看板料理で、肉質も食感も一流だった。二人の愛の証である赤ワインと合わせれば、まさに最高の食事だったが、夏目芽依は今、針のむしろに座っているような気分だった。

彼女はずっと、今夜の羽柴明彦はどこか様子がおかしいと感じていた。いや、かなりおかしかった。

車から降りた時から。

「今夜は本当に綺麗だね」彼女を見た瞬間から、彼はすでに普通ではなかった。これは羽柴明彦が言いそうな言葉ではなかった。