「鈴木ママ、何かあったの?」
「奥様、奥様がこんなに遅くまで帰ってこないので、旦那様が心配しています。今、あなたのそばにいらっしゃいますか?」鈴木ママは受話器を握りしめ、小声で尋ねた。
「ええ、少し待ってください。」
受話器からは数人の笑い声が聞こえ、3秒もしないうちに夏目芽依の声が伝わってきた。
「奥様、早く帰ってきてください。旦那様が怒っているようです。」
「あぁ…」
この電話は晴天の霹靂のようで、夏目芽依は電話を握る手も思わず緊張してきた。この家族との会話があまりにも楽しく、うっかり時間を忘れてしまった。今や空はすっかり暗くなり、羽柴明彦が定めた門限をとうに過ぎていた。
「わかったわ、すぐに行くわ。」
電話を切ると、夏目芽依のさっきまでの軽やかで楽しい気分は一瞬で消え去った。羽柴明彦にはこういう特技があり、彼のことを考えるだけで気分が悪くなるのだ。