第38章 いくつかの思い出

片桐恭平は自分のニュース記事を見ていたが、それは羽柴明彦の写真一枚ほどの大きさもなかった。

昨日の主役は明らかに自分のはずだった。片桐润悟がリトウというこれほど大きなホテルグループを自分に託したのだから、彼こそがビジネス界で急速に台頭する新星のはずだった。それなのに、途中から現れた羽柴明彦に何故か注目を奪われてしまった。

ニュースメディアやゴシップ誌にとっては、財閥の社長の恋愛模様は家族企業の後継者よりもずっと魅力的なのだ。

それに、羽柴明彦はずっとメディアの注目の的だった。少年時代に父親を亡くし、母親が再婚し、悲惨な身の上で、企業を引き継いで再建し、わずか数年で風光グループを完全に立て直した。噂の恋人は有名な実業家の一人娘で、今度は電撃結婚だなんて、まるでニュースを作るために生まれてきたようなものだ。