羽柴明彦は振り向いて、「上の階の人たちを全員起こすつもりか?」
「あっ…」夏目芽依は急いで自分の口を押さえた。「でも…」彼女はただあまりにも驚いただけだった。
夜は静かで、かすかに浴室から流れる水の音が聞こえる。二人は数秒間見つめ合い、夏目芽依は早足で羽柴明彦の側に行き、小声で尋ねた。「あなたの背中…怪我をしたことがあるの?さっき偶然見たんだけど…」
羽柴明彦は答えず、ただまっすぐ前に歩き続けた。彼は背が高く足が長いため、夏目芽依は小走りでついていくしかなく、スリッパが回廊で「ぱたぱた」と音を立てた。
羽柴明彦は再び振り返り、今度は口を開く前に、夏目芽依は彼の意図を理解し、足を遅くして、ついに置いていかれた。
歩きながら、彼の背中にあった縦横に走る傷跡を思い出した。それらは交差し合い、非常に恐ろしいものだった。もし回廊の入り口の灯りの下で見なかったら、きっと自分の目の錯覚だと思っただろう。