第134章 完全な物語

帰りの車の中で、二人はそれぞれ思いにふけっていた。

夏目芽依は静かに助手席に座り、窓の外を流れていく夜景を眺めながらぼんやりしていた。

羽柴明彦が食卓を離れた後、彼女は金田直樹とますます話が弾んだ。金田直樹が人見知りしない性格だったことは、彼女にとって予想外のことだった。

「明彦くんと結婚するのは、他の男性と結婚するのとはちょっと違うだろうね」彼は突然そんな唐突な言葉を口にした。「彼は苦労人だよ。子供の頃から幸せとは縁遠く、今では父も母もいないようなものだ。普段は一人でいるのが好きで、孤独に慣れてしまっている。時々無口になるけど、君といる時はそうじゃないんじゃないかな」

「父も母もいない?」夏目芽依は同意しなかった。「お父さんは亡くなったけど、お母さんはまだ元気じゃない」