「ひっ~」店を出るとすぐに、冷たい風が吹き抜け、夏目芽依は思わず肩をすくめた。片桐恭平は特に風を遮る位置に立ち、駐車係に車のキーを渡した。
「少々お待ちください」
たった1時間だけと約束していたのに、出てきたときにはすでに8時半になっていた。やはり男の約束なんて、豚が木に登るようなものだ。夏目芽依は内心で苦笑した。次回は絶対にこの男の言いなりにならないようにしよう。今夜の睡眠時間がまた知らぬ間に減ってしまった。
「寒いの?」片桐恭平が彼女を見下ろすと、夏目芽依が手袋をしておらず、コートにもポケットがないため、小さな拳を握りしめているのに気づいた。
「ちょっとね…」
片桐恭平は突然ポケットから何かを取り出し、夏目芽依の手を取って、彼女の手のひらに置いた。
夏目芽依は手のひらが温かくなるのを感じ、見下ろすとそれはピンク色のカートゥーンデザインのカイロだった。片桐恭平のような大人の男性がこんなものを持ち歩いているとは思わず、思わず笑みがこぼれた。