第184章 幸運な人

時計の針はすでに9時を過ぎ、夏目智子は小豆汁を一杯持って書斎に入った。

「小豆汁を少し飲みなさい」彼女はカップをテーブルに置いた。

「夏目芽依は帰ってきましたか?」羽柴明彦は仕事から気を逸らし、顔を上げて尋ねた。

夏目智子は首を振った。「彼女は友達と食事に行ったわ。今日は少し遅くなるかもしれないって、前に電話をくれたわ」

羽柴明彦はうなずいたが、目は思わず横の時計に向かった。この時間なら、夕食もそろそろ終わっているはずだ。どんな友達との食事が深夜まで続くというのだろう。

「今、忙しい?」夏目智子は探るように尋ねた。

羽柴明彦は彼女を見て、意図がわからず「まあまあ」と答えた。

「忙しくないなら少し休んで、スープを飲みなさい。ちょうどあなたに話したいことがあるの」夏目智子は隣のソファに座り、去る気配はなかった。