時計の針はすでに9時を過ぎ、夏目智子は小豆汁を一杯持って書斎に入った。
「小豆汁を少し飲みなさい」彼女はカップをテーブルに置いた。
「夏目芽依は帰ってきましたか?」羽柴明彦は仕事から気を逸らし、顔を上げて尋ねた。
夏目智子は首を振った。「彼女は友達と食事に行ったわ。今日は少し遅くなるかもしれないって、前に電話をくれたわ」
羽柴明彦はうなずいたが、目は思わず横の時計に向かった。この時間なら、夕食もそろそろ終わっているはずだ。どんな友達との食事が深夜まで続くというのだろう。
「今、忙しい?」夏目智子は探るように尋ねた。
羽柴明彦は彼女を見て、意図がわからず「まあまあ」と答えた。
「忙しくないなら少し休んで、スープを飲みなさい。ちょうどあなたに話したいことがあるの」夏目智子は隣のソファに座り、去る気配はなかった。