第178章 ママの味

「いい匂い〜」夏目芽依は家に足を踏み入れた途端、これが酢豚の香りだとわかった。

彼女は幼い頃から長年、学校の食堂でも外のレストランでも、この家庭料理を数え切れないほど食べてきたが、どれも夏目智子の腕前には及ばなかった。

彼女は前に出て夏目智子の肩を抱き、「ママ、今日はどうしてこの料理を作ろうと思ったの？」と尋ねた。

夏目智子は眉をしかめ、「後ろに下がりなさい。熱い油が跳ねるわよ」と言った。

油と聞いた夏目芽依はすぐに2メートル後ろに飛び退き、隅っこに逃げた。油が跳ねるのが怖いのは彼女の料理の腕が上達しない最大の敵で、聞くだけでも身震いするほどだった。

「久しぶりに作ろうと思って、あなたたちに味わってもらおうかと」

砂糖のタレと濃口醤油で色付けされた酢豚が湯気を立てて出来上がり、夏目智子は横から白ゴマをつまんで振りかけ、完成させた。