第231章 自己を知る明

「急性胃腸炎、まずは点滴です。」医師は検査結果を簡単に確認し、点滴の処方箋を書いた。

「ひっ〜」看護師が針を羽柴明彦の手の甲の血管に刺すのを見て、夏目芽依は思わずため息をついた。

「何してるの?」羽柴明彦が振り向いた。

「あなたの痛みを感じて...」夏目芽依は小さな声で言った。彼女は小さい頃から針が怖くて、子供の頃予防接種があると、遠くに逃げていた。まるで他の子供たちに刺された針が、自分にも痛みを感じさせるかのように。「これは共感というものよ」と彼女は説明した。

羽柴明彦はもちろん共感とは何かを知っていたが、そのようなものを信じていなかった。世界には本当の感情移入など存在せず、それは人々の自己催眠に過ぎないと頑固に信じていた。

「小豆スープに何を入れたんだ?」

夏目芽依は驚いた顔をした。「何ですって?」