「羽柴社長、直接会社に戻りますか?」
「家に帰る」羽柴明彦は飛行機を降りたばかりだった。早く帰るために夜間の深夜便に乗り、一晩中飛行して気流の乱れに遭い、全く休めなかった。今は頭が痛くてたまらない。「会社のことは任せる。私は明日行く」
「はい」木村城太は返事をして、車は西郊外ヴィラへと向かった。
家に入ると、鈴木ママがすぐに迎えに来て、彼の手からバッグとコートを受け取った。
「お帰りなさいませ。すぐに休まれてください。温かいスープを用意しました。後で少し飲んでから休まれては」
「いらない」羽柴明彦は手を振り、そのまま階段を上がった。
突然、何かがおかしいと感じた。もう七時半を過ぎているが、まだ出勤時間ではない。夏目芽依は下で食事をしているわけでもなく、上で服を探しているわけでもない。普段なら、この時間に家がこんなに静かなはずがない。