第302章 損失なんてどこにある

夏目芽依はすでにコーヒーを二杯飲み終え、オフィスで暇つぶしに指先で遊んでいたところ、ふと顔を上げると羽柴明彦が戻ってきたのを見かけた。

「話してください、あと10分しかありませんよ」

夏目芽依は自分がまるで頼み事をしに来た小さな社員のようだと感じた。上司は忙しければ待たなければならず、上司に時間があれば急いで話さなければならない。さもなければ、次のチャンスがいつ来るかわからない。

「あなたの契約書を見ました」彼女は木村城太が起草したウェブサイトデザインの契約書をテーブルに置いた。「いくつか問題があります」彼女は咳払いをして、真剣な表情で言った。「まず、評価基準が明確ではありません」

羽柴明彦は彼女を見つめ、続けるよう促した。

「ほら」夏目芽依は契約書を自分が折り目をつけたページに開き、あらかじめマークしておいた箇所を指さした。「この条項です。ウェブサイトデザインプロジェクトの最終効果の評価基準は甲の会社のスタイルと好みによって決定され、乙は専門的なデザインの要件と詳細について適切な提案を行うことができるが、最終決定権は甲のみに属する」