門を入ると、夏目芽依はこれが本当に葬儀だと気づいた。ただし、人々が列を作って故人に向かって頭を下げて悲しむような葬儀ではなく、正式な儀式の後の送別会だった。
豪華で華やかなホールの中で、皆が小声で会話をしていた。服装の色以外は、普段参加する他のイベントと大きな違いは見られなかった。もし先ほど羽柴明彦がこれは前市長の追悼式だと言わなければ、彼女は単に黒と白の服装が要求される普通のパーティーに参加していると思っていただろう。
しばらくすると、スーツをきちんと着こなした中年男性が中央に歩み出て、人々の注目を集めた。自然と会話が止んだ。
「本日は森市長の送別会です。ここにいる皆さんは森市長と関わりのあった各界の方々で、多くの方が長年の古い友人でもあります」と吉田明彦は言った。「森市長の後任として、この場で彼に代わって少し話をさせていただきたいと思います」