第355章 何か考えて

「自己紹介を忘れていました」吉田明彦は言った。「私は現市長の吉田明彦で、中村景吾の義父でもあります」

夏目芽依は中村景吾を見た。自分がよりによって彼に吉田明彦の悪口を言ってしまったなんて、本当に叩かれるべきだ。

「義父に過ぎないよ、本当の父親じゃないし」中村景吾は気にせず口を尖らせた。「まだ仕事があるから、二人をここに残して話すのはやめておくよ」そう言って、トレイに残った3匹のエビを持って客の中へ消えていった。

夏目芽依は彼の背中を見つめながら、どうやって逃げ出そうかと考えていた。

「お会いできて光栄です、夏目さん」吉田明彦は彼女を見つめた。「羽柴明彦さんも私の友人ですから、今度機会があれば一緒に食事でもしましょう」そう言うと、彼は手に持ったグラスを掲げて、より会話する価値のある人々の方へ歩いていった。夏目芽依はほっと息をついた。