第356章 彼女自身の選択

夏目芽依は大広間に戻り、あちこちで羽柴明彦の姿を探したが、どこにも見つからなかった。

「ねえねえ」中村景吾が後ろから近づき、彼女の腕をつかんだ。「どこに行ってたの?たくさん食べ物を持ってきたんだよ。全部兄貴の手作りだよ。言っておくけど、兄貴は五つ星ホテルのシェフなんだ」

夏目芽依はこの時、食べ物に気を向ける余裕などなかった。「羽柴明彦を見なかった?」

「羽柴明彦?」中村景吾は首を振った。「見てないよ」実際見かけても彼は知らないのだが、「電話すればいいじゃん」

「彼は携帯を持ってないの」と夏目芽依は言った。

羽柴明彦は以前彼女に、このような社交の場で突然携帯が鳴るのは非常に失礼な行為だと言っていた。それに置く場所もなく、ポケットに入れるとスーツ全体の見栄えに影響するので、会場に入ったら携帯は外に置いておくのだという。もちろん、特別な状況は除いて。