第358章 見捨てられて当然なのか

「明彦くん、私はもう行くわ。これからはお父さんの言うことをよく聞いて、いい子になるのよ。わかった?」菅原萤子は身をかがめ、幼い頃の羽柴明彦に真剣な面持ちで語りかけた。

前回菅原萤子が羽柴家を去った時、羽柴明彦はまだ幼く、物心がついていなかったため、彼女の別れについてあまり印象に残っていなかった。彼は自分の幼少期に母親という存在がいなかっただけだと感じていた。時々不便なこともあったが、彼にはまだ父親がいて、祖母がいて、彼を可愛がってくれる叔父夫婦もいたので、全体的には受け入れられる状況で、特に大きな影響はなかった。菅原萤子の短い帰還は、彼にとって人生で最も幸せな時間だった。その年、彼は10歳で、初めて完全な家族とは何かを感じることができた。

しかし、この短い幸せな時間は1年も続かなかった。