車は目的もなく走り続け、羽柴明彦はずっと黙っていた。
夏目芽依は腕を組んで言った。「話すことがあるなら早く済ませて。私はすぐに帰らなきゃいけないの。遅くなると金田凛香が心配するから」
「彼女は心配しない」羽柴明彦は前方をまっすぐ見つめたまま言った。「私が連絡しておいた」
「あなたが!」夏目芽依は突然怒りがこみ上げてきた。この人はいつもこう、思いついたことをすぐ実行して、自分が何者なのか、どんな立場で話しているのかを全く気にしない。
車が曲がって高架に上がるのを見て、夏目芽依は少し焦り始めた。
「どこに連れて行くの?」
羽柴明彦は黙ったまま運転を続けた。しかし夏目芽依はバカではない。今の方向から見ると、明らかに西郊外ヴィラに向かっていた。
「車を止めて」夏目芽依は言った。「止めないなら飛び降りるわよ!」羽柴明彦が反応しないのを見て、彼女は脅した。