夜。
夏目芽依は夜中に喉が渇いて目を覚まし、水を飲みに起きた時、リビングを通りかかると、夏目智子が一人でベランダに立っているのを偶然見つけた。灯りさえつけていなかった。
声をかけようと思ったが、夜中にそんな大声を出したら母を驚かせてしまうかもしれないと思い、水の入ったコップを持ってそっと近づいた。
この季節の夜はもう以前ほど涼しくなかったが、それでも芽依はソファに置いてあったショールを手に取り、智子に掛けてあげようとした。
ベランダの床に足を踏み入れた瞬間、彼女は智子の小さなすすり泣きの声を聞いた。夜は静かで、その音は非常にはっきりと聞こえた。
芽依は顔を上げ、足を止めると、智子の肩がわずかに震えているのに気づいた。先ほど聞き間違えではなく、彼女は本当に泣いていたのだ。