第501章 家に送ってね

もう一時間が経っていたが、ガラス越しに、夏目芽依はまだ向かいのオフィスで若松結衣がパソコンに向かってカタカタと打ち込み、自分の仕事を処理し続けているのが見えた。彼女を手伝いに来る気配はまったくない。

「はぁ…」彼女は静かにため息をついた。

人に頼んでもダメだが、かといってずっとここで引き延ばすわけにもいかない。結局、さっき若松結衣が言ったように、彼女の決断が遅ければ遅いほど、部下たちの仕事の効率も下がる。そうなれば会社の業務に影響が出て、責任はすべて彼女に降りかかってくるのだ。

そう考えると、夏目芽依は携帯を取り出し、羽柴明彦に電話をかけた。

「何か用?」

「あの…」夏目芽依は小声で言った。「今、理解できない書類があって、聞きたいことがあるんだけど…」

「今、会議中だ。後でにしてくれ」そう言うと、電話からツーツーという音が聞こえ、彼女が返事をする前に、羽柴明彦はすでに容赦なく切ってしまった。