第509章 口では嫌がっても体は正直

羽柴明彦は全く避けようとせず、半箱の冷たい牛乳を頭から浴びせられて顔中びしょ濡れになり、五秒間も呆然としてから、ようやく立ち上がった。

その時、夏目芽依はすでに素早く地面から立ち上がっていた。先ほど転んだ際に手のひらも粗い地面に擦れていたが、今の状況を考えると、その小さな傷など何でもなかった。何と言っても、羽柴明彦の目には明らかな殺気が宿っていたのだから。

「頭おかしいのか？！」羽柴明彦は歯を食いしばって言った。その声はまるで喉から絞り出されたようだった。

彼はちょうど集中して何かを考え、夜空を見つめていたところだった。この半箱の牛乳はまるで天から降ってきたもののように、彼を想像の世界から無情にも現実に引き戻し、頭の中を完全に空白にしてしまった。

夏目芽依は小さな声で言った。「本当に故意じゃなかったの…さっきあの穴を踏んじゃって…あの穴のこと忘れてたし…」そう言って、自分の足元にある目立たない小さな穴を指さした。もしあれがなければ、今こんな目に遭うこともなかったのに。