ベッドに横たわり、夏目芽依は寝返りを打ち続け、どうしても眠れなかった。やがて腹立たしくなって起き上がった。
胸が詰まる感じがして、夜に羽柴明彦と大喧嘩したときの言葉がまだ耳に響いていた。長い時間が経っても消えなかった。
「もし君がお金に困っているなら、いつでも僕に言えばいい」羽柴明彦は彼女を見つめながら言った。「今、羽柴夫人という立場でも、君の金銭や名声への欲求を満たせないのか?わざわざ幼少期の欠落を埋めようとする必要があるのか?」
彼はこの言葉に悪意はなかった。ただ心で思ったことをそのまま口にしただけで、聞き手の気持ちを全く考慮していなかった。
夏目芽依は、この男がまたもや自分にこんな言葉を投げかけたことが信じられなかった。
「幼少期の欠落」という四文字が彼女の心に重く響いた。