「渡さない」夏目芽依は自分のスマホをしっかりと握りしめた。「それに今削除したところで無駄よ、もうクラウドにバックアップしてあるから」
実際には全くバックアップなどしていなかったが、ただの嘘だった。
羽柴明彦は信じられないという顔で彼女を見つめた。まさか自分の名声がこんな小娘の手によって台無しにされるとは思ってもみなかった。もしこの件が彼女によって広められたら、その結果は想像を絶するものになるだろう。
「何が望みだ?」
夏目芽依は首を振った。「別に何も望んでないわよ。ただあなたの写真が何枚か私の手元にあるって教えただけ」
「脅しているのか?」羽柴明彦の反応は確かに一般人より鋭く、一目で彼女の目的を見抜いていた。
しかし今回は彼の推測は外れていた。夏目芽依には彼を脅す意図など全くなく、ただ単純に彼を不快にさせたいだけだった。いつも威張り散らして、言動が人を不愉快にさせる彼への仕返しだった。