夏目芽依がオフィスに入ると、部屋の雰囲気がどこか変だと気づいた。まさに暗雲が立ち込めているといった様子だった。
マーケティング部の第三チームは、いつもリラックスした雰囲気で知られていた。この数週間、彼女もそれを実感していた。みんな活発で外向的で裏表がなく、素晴らしいチームだった。
せっかく大きな契約を取ったのだから、まだ喜びに浸っているはずなのに、どうして急にこんな雰囲気になったのだろう?
「チームリーダー、何かあったの?」
田中晴が顔を上げて彼女を見た。表情は非常に落ち込んでいた。「私たちのチームのボーナスとコミッションが全部なくなったんだ」
「どうして?」
「若松部長が言うには、顧客との契約は営業部の仕事だから、コミッションは注文書を作成した営業担当者のものであって、私たちマーケティング部には関係ないんだって」田中は無力感を漂わせながら言った。「精一杯交渉したけど、却下されたよ」