「でも気分じゃないわ!」可笑しいことに、橋口俊樹に対する感情がなくなっていたとしても、夫の浮気現場を押さえたばかりの女性なら誰でも、観光気分になどなれないでしょう?
鈴木越哉は彼女の手を引いて、海辺へと歩いていった。「気分じゃないからこそ、気晴らしに来たんじゃないか。良い気分を探すためにね、そうだろう?」
「あなたの言うことにも一理あるわね。まあ、どうせ数日休暇を取ったことだし!」石塚千恵は自嘲気味に口元を歪めた。「数日かかると思っていたのに、着いたとたんに現行犯で捕まえられるなんて思わなかったわ!」
「ははは...それはあなたの運が良かったということだよ!」
石塚千恵は鈴木越哉に導かれるまま、海辺まで歩いた。砂浜は本当に細かくて、踏むとふわふわして心地よかった。靴を脱いだ彼女は、素足で砂を踏みしめると、足の裏のくすぐったい感覚に思わず笑みがこぼれた!
「ふふ...ふふ...」笑い声は断続的で、少し痛みを堪えているような味わいがあった。
花柄のシャツとショートパンツに着替えた鈴木越哉は思わず笑いながら尋ねた。「
「またふざけて!」日よけ帽をかぶった石塚千恵は、彼を叩くふりをした。
鈴木越哉は肩をすくめた。「何を心配しているの?いとこも聞こえないよ!」
「彼と何の関係があるっていうの!」
鈴木越哉はまた嘲笑うように笑った。「関係ないって言い切れる?彼のせいで、あなたは僕と完全に縁を切ったんじゃないか!」
石塚千恵はキノコ型のパラソルの下に座り、ミネラルウォーターのキャップを開けて一口飲んだ。「彼とは本当に何の関係もないわ。あなたはいつも意味不明なことを言うから、知らない人が聞いたら私たちに何か関係があると思うでしょう。そんなの私にとってどれだけ悪影響か分かってる?」
鈴木越哉も日よけパラソルの下に座った。このパラソルは少し低く設計されていて、外からは中の様子がほとんど見えず、二人の間に一種の妙な雰囲気が流れ始めた!
石塚千恵は必死に端の方へ寄り、できるだけ彼との距離を取ろうとした。
鈴木越哉は眉を上げただけで、特に何も言わなかった。「今度こそ、あなたといとこは思う存分一緒にいられるね!」