「でも気分じゃないわ!」可笑しいことに、橋口俊樹に対する感情がなくなっていたとしても、夫の浮気現場を押さえたばかりの女性なら誰でも、観光気分になどなれないでしょう?
鈴木越哉は彼女の手を引いて、海辺へと歩いていった。「気分じゃないからこそ、気晴らしに来たんじゃないか。良い気分を探すためにね、そうだろう?」
「あなたの言うことにも一理あるわね。まあ、どうせ数日休暇を取ったことだし!」石塚千恵は自嘲気味に口元を歪めた。「数日かかると思っていたのに、着いたとたんに現行犯で捕まえられるなんて思わなかったわ!」
「ははは...それはあなたの運が良かったということだよ!」
石塚千恵は鈴木越哉に導かれるまま、海辺まで歩いた。砂浜は本当に細かくて、踏むとふわふわして心地よかった。靴を脱いだ彼女は、素足で砂を踏みしめると、足の裏のくすぐったい感覚に思わず笑みがこぼれた!