「彼は知らないんだ……」徳田校長は陸奥照影たちが投げかけてくる視線を見て、突然気づいたように言葉を切った。「君の今の状況を知らないのか?!」
「大丈夫よ、無駄にはならないわ」秋山直子はもう一方の手で顎を支え、指先を唇に当てた。
徳田校長はいつも冷静で、儒雅な学者タイプで、理性的で自制心があったが、神崎深一たちは初めて徳田校長が汚い言葉を使うのを聞いた。
神崎深一は薬の粉を慎重に秋山直子の手のひらの傷に振りかけながら、途中で徳田校長を見上げた。
その瞳には静けさがあった。
陸奥照影は彼ほど冷静ではなく、呆然と秋山直子を見たり徳田校長を見たりした。この二人は年齢だけでなく、身分においても大きな隔たりがあった。
徳田家は東京では頂点に立つ三家には及ばないが、徳田さんの東京での地位は重要で、それゆえ徳田家はその次に位置していた。