道中の花に悩まされ

　秋山直子。田舎育ちで、1年間の行方不明者になり、休学を経て千葉県の名門高校に編入したばかりの、どこか影のある少女。
実母に引き取られた先の新しい家族は、名家の継父、天才と名高い義兄、成績優秀な義妹と、きらびやかな面々。「あの子達の顔に泥を塗らないで」――実母の言葉が、直子の肩に重くのしかかる。

そんな彼女の婚約者は、神崎深一。気だるげな雰囲気とは裏腹に、東京の経済界にも影響力を持つ大富豪の御曹司だ。
彼は周囲にこう紹介する。「俺の直子は、田舎者で世間知らずなんだ。経済のことも疎いし、ちょっと気難しいけど……まぁ、みんなよろしく頼むよ」
だが、それは彼なりの優しさなのか、それとも――？

ある日、深一が追っていた某大物の調査の過程で、彼の有能な部下が偶然衝撃的な事実を発見してしまう。それは、深一が「何も知らない」と言っていたはずの直子の、信じられないような「隠された一面」だった。
（……え、奥様、一体何者なんですか！？）部下は驚愕のあまり、思考が停止する。

これは、お互いの「とんでもない素性」を隠し合うカップルの物語。彼らが秘密を打ち明ける時、何が変わるのでしょう？



二人の隠しこと

秋山直子はこのメッセージを見て、車から降りるのをやめた。


ただ手を伸ばして唇に触れ、目を少し細めた。


しばらくしてから、彼女は手を伸ばし、スマホで返信した——


【どうやって見つけたの？】


マシューと長野誠は完全に異なる勢力に属していた。長野誠の129本部は東京にあり、マシューは自分の情報網を持っていた。常識的に考えれば、マシューと長野誠には接点がないはずだった……


彼がなぜ突然長野誠を見つけたのか？そして彼女を探すと言い出したのか？


もし本当なら……直接彼女本人を探した方が便利ではないか？


長野誠を通すのは回りくどすぎる。


秋山直子は顔を上げて窓の外を見た。外はライトで明るかった。


長野誠からの返事はなく、また一言送ってきた——


秋山直子は先ほど志賀明が言ったことを考え、マシューが長野誠に何の用があるのか分からなかったが、「うん」と返信しながら、ポケットからイヤホンを取り出して耳に入れた。


213 赤い印（二更）