江戸川院長は箸を置かずに、携帯電話を取り出して見た。今年の物理学部の一年生の担任である上原くんからだった。
「江戸川院長!」
耳が痛くなるほどの声に、江戸川院長は慌てて携帯を遠ざけた。
「何事だ、そんなに慌てて」食卓の人々は皆知り合いだったので、江戸川院長はあえて避けず、冷静に口を開いた。
電話の向こうの上原くんは冷静ではいられず、叫び続けた。「神崎家の人が今年の学生、秋山直子に目をつけました!」
江戸川院長の手が震え、箸でつまんでいた豚の骨が食卓に落ちた。
「何だって?!」江戸川院長は「バッ」と立ち上がり、表情を引き締めた。「連絡先を教えてくれ、この件は私が解決する」
彼は電話を切ると、急いで椅子を引いて立ち去った。食事はまだ半分も終わっていなかった。
八雲健二は彼の背中を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。「江戸川院長、もう食べないのですか?」