なるほど、カロが彼をそんなに尊敬しているわけだ。相手はボクシングチャンピオンだったのか。
カロは秋山直子を一瞥してから、徳田家の人々に何か指示を出し、バートを連れて一区へと向かった。
「バート様?」二人が基地の入口に着くと、バートの足が一瞬止まり、カロは顔を上げた。
バートは後ろの人々を見つめていた。彼の瞳は漆黒で冷たく、威圧感が強く、その目には血の気が見え隠れし、まるで殺戮に目が眩んだかのようだった。
彼の視線が向けられると、徳田家の意志の弱い数人は思わず一歩後ずさりした。
バートの視線は群衆の中で唯一の女性に一瞬留まった。その女性は少し傲慢そうに見えたが、彼女の身には荒々しさや落ち込んだ雰囲気は全くなかった。
濃い眉が少し寄ったが、すぐに首を振り、低い声で言った。「何でもない、見間違えた。」