道中の花に悩まされ

　秋山直子。田舎育ちで、1年間の行方不明者になり、休学を経て千葉県の名門高校に編入したばかりの、どこか影のある少女。
実母に引き取られた先の新しい家族は、名家の継父、天才と名高い義兄、成績優秀な義妹と、きらびやかな面々。「あの子達の顔に泥を塗らないで」――実母の言葉が、直子の肩に重くのしかかる。

そんな彼女の婚約者は、神崎深一。気だるげな雰囲気とは裏腹に、東京の経済界にも影響力を持つ大富豪の御曹司だ。
彼は周囲にこう紹介する。「俺の直子は、田舎者で世間知らずなんだ。経済のことも疎いし、ちょっと気難しいけど……まぁ、みんなよろしく頼むよ」
だが、それは彼なりの優しさなのか、それとも――？

ある日、深一が追っていた某大物の調査の過程で、彼の有能な部下が偶然衝撃的な事実を発見してしまう。それは、深一が「何も知らない」と言っていたはずの直子の、信じられないような「隠された一面」だった。
（……え、奥様、一体何者なんですか！？）部下は驚愕のあまり、思考が停止する。

これは、お互いの「とんでもない素性」を隠し合うカップルの物語。彼らが秘密を打ち明ける時、何が変わるのでしょう？



二人の隠しこと

試合は15分間続き、全員が目を離さずに見つめていた。


会場の全員が一瞬静まり返った後——


「ドン」という音とともに、全員が立ち上がった。


様々な歓声が雷鳴のように沸き起こり、天を突き破るほどだった！


試合終了、全ての賭けが締め切られた。


マース家族の勝利！地下同盟の敗北！


全員の視線がハロルドの隣の人物に集中した。


彼女は手で地面を支え、リングからゆっくりと立ち上がった。


眉目は相変わらず冷たく傲慢で、右手をゆっくりと上げ、親指で無造作にマスクの外側に滲んだ血を拭い取った。


秋山直子はさっと振り返り、眉をひそめて観客席の西側を一瞥し、そのままエレベーターで降りていった。


余計な言葉は一切なかった。


506地下同盟、杉森善樹