薄い霧の中

「お姉さん、もう諦めなさい。口もきけない女が産んだ子を、神城家が認めるわけないでしょ」
愛人は片方の肩をあらわにして、彼女を玄関の外へと閉め出した。

彼女は神城家の「名ばかりの若奥様」。
だけど、その実態は――笑い者のような人生だった。

声を失った彼女は、神城家に恥をかかせる存在とされ、
夫である神城連真は、一度たりとも彼女を「妻」と認めたことがなかった。
それどころか、毎晩ベッドサイドに離婚届を置いてくる始末。

一千万円の小切手――
彼女は黙って署名し、その代わりに自由を手に入れた。

だが、数年後。
再び再会した彼は、子供を連れて彼女を追いかけながら言った。
「霧島咲姫、俺に…まだチャンスはあるか？」

復縁の長い道：口のきけない妻は可愛すぎる

「何様のつもりだ、私を止めるなんて。」


一条執事に阻まれた東條未煙は、心中非常に不満だった。表面上は執事に笑顔を向けていたが、実際には内心で何度も彼を呪い殺していた。


「申し訳ございません、東條さん。今日はお帰りになって休まれてはいかがでしょうか。」


どうしても入れないと悟った未煙は、仕方なく諦めた。彼女は軽く頷き、目に深い意味を宿らせると、そのまま立ち去った。


東條未煙はゆっくりと煌の部屋の入り口まで歩き、ベッドで眠っている煌を見つめた。彼女の目には一瞬いらだちが浮かんだが、使用人の耳には特別な思いやりを込めた口調に聞こえた。


「坊ちゃまは今夜少し落ち着きがなく、体調が優れないようです。しかし先ほどお粥を少し召し上がり、もう眠られています。私がここで様子を見ております。」


第96章 煌が病気になった

第96章煌が病気になった