「お姉さん、もう諦めなさい。口もきけない女が産んだ子を、神城家が認めるわけないでしょ」
愛人は片方の肩をあらわにして、彼女を玄関の外へと閉め出した。
彼女は神城家の「名ばかりの若奥様」。
だけど、その実態は――笑い者のような人生だった。
声を失った彼女は、神城家に恥をかかせる存在とされ、
夫である神城連真は、一度たりとも彼女を「妻」と認めたことがなかった。
それどころか、毎晩ベッドサイドに離婚届を置いてくる始末。
一千万円の小切手――
彼女は黙って署名し、その代わりに自由を手に入れた。
だが、数年後。
再び再会した彼は、子供を連れて彼女を追いかけながら言った。
「霧島咲姫、俺に…まだチャンスはあるか?」