S市は広大で物産も豊かで、観光スポットはここだけではない。
しかし霧島咲姫はどうしても、これが偶然だとは思えなかった。どうして会ったばかりなのに、今ちょうど同じ場所にいるのだろう。
「咲姫、夜に温泉に行かない?もう見つかったんだから、気にしすぎることもないよ。堂々としていればいいじゃない」朝霧翔真は優しい声で、傍らで言った。
彼の言うことはもっともだ。
彼女が考えすぎていたのだ。
疑われているなら、いっそ彼の心をもっと不安にさせてやろう。
霧島咲姫は微笑んで、「いいわ、少し準備したら出かけるわ。あなたは部屋で待っていて」と言った。彼女はまだ部屋を片付ける必要があった。昨夜帰ってきたとき、何もせずに寝てしまったのだ。
今日は風邪も良くなって、とても快適に感じていた。