霧島咲姫はすぐに行き先を決めた。実際にはただ適当に選んだだけで、選びすぎて頭がくらくらしていた。
「翔真、こんなに早く?」霧島咲姫はノックの音を聞いて眉をひそめ、小走りでドアを開けた。
朝霧翔真が笑顔で立っているのが見えた。
「荷物を運ぶの手伝いに来たんだよ。無料の労働力を断るわけないでしょ?」朝霧翔真は冗談めかして笑ったが、実際はこの良心のない小悪魔が寝坊したらどうしようと心配していたのだ。
なぜかわからないが、彼はいつも感じていた。咲姫の心の中には、自分がいないのかもしれないと。
そう思うと、朝霧翔真は胸が痛んだが、それを表に出すことはなかった。
「もちろん断らないわ。これだけ荷物があるし、重いかもしれないし」
霧島咲姫は朝霧翔真を見て微笑み、目は輝いていた。この旅行をとても楽しみにしているようだった。彼女は両手をきつく握りしめ、それ以上話を続けなかった。
彼女の楽しみを邪魔したくなかったからだ。
「じゃあ、早く準備して。飛行機に乗り遅れないようにしないと」
朝霧翔真は彼女を見て微笑み、目には優しさが溢れていた。
霧島咲姫は彼の言葉を聞いて頷き、荷造りのスピードを上げた。そしてすぐに二人は空港へ向かい、飛行機に乗り込んだ。
どれくらい時間が経ったかわからないが、霧島咲姫は飛行機に乗るとすぐにうとうとと眠りについた。
S市に着いて飛行機を降りると、冷たい空気が霧島咲姫の服の中に入り込んできた。
「ひっ、S市では小雪が降り始めてるなんて、寒い」霧島咲姫は服をきつく巻き付け、小さな声でつぶやいた。
隣にいた朝霧翔真は霧島咲姫の変化に気づいていなかった。
霧島咲姫は空に舞う小雪を見て、急に観光する気が失せた。
しかし朝霧翔真がいるため、彼女は無理して元気を出し、彼と一緒に予定通りの観光プランを実行することにした。
「先にホテルに戻る?」朝霧翔真はタクシーを手で止め、彼女に言った。お互いの荷物が多く、とても不便だった。
「うん、それから花見と温泉に行きましょう」
霧島咲姫は素早く車に乗り込み、運転手にある場所の名前を告げた。朝霧翔真は気遣いよく荷物をすべてトランクに入れた。
S市は西平からそれほど遠くないが、地理的に辺鄙な場所にあるため、車で行くと8、9時間かかるが、飛行機なら1時間もかからない。