第22章 所詮ただの使い古しだ

霧島咲姫はこのドレスをとても気に入っていたが、すでに予約されているなら人の物を奪うつもりはなかった。

朝霧翔真が声を聞いて駆けつけ、尋ねた。「どうしたの?」

店員は謝りながら答えた。「実はこちらのお嬢様がこのドレスを気に入られたのですが、すでに予約が入っているんです。」

朝霧翔真は眉をひそめ、霧島咲姫を見た。彼女の視線はまだそのドレスに向けられており、本当に気に入っているようだった。

彼は言った。「3倍の価格を払おう。」

それを聞いて、霧島咲姫はすぐに視線を戻して彼を見つめ、直接彼の服をつかんで、最後には首を振った。

彼女はそんな高価なものは必要なかった。ただの夜会だけなのだから、どんなドレスでも構わなかった。

店員も無理強いするのは難しいと感じた。「申し訳ございませんが、これは神城若様のご予約品でして、私たちが勝手に判断することはできないのです。」

見渡せば、朝霧家と神城家が並び称されるほどだが、実力を比べるなら神城家の方が一枚上手だった。

だからどう考えても、このドレスを朝霧翔真が持ち帰ることはできなかった。

しかし店員の言葉は、霧島咲姫にある気づきを与えた。

神城連真がドレスを買った、それもこんな高価なドレスを。東條未煙以外に贈る相手は考えられなかった。

彼女の顔には苦さが広がり、朝霧翔真の服を軽く引っ張って、もう言わないでと合図した。

朝霧翔真は当然彼女の意図を理解し、すぐに店員に彼女をこの場から連れ出すよう頼んだ。

最終的に黒いドレスを選んだ。控えめで上品なそれは、彼女に着せるとぴったりだった。

夜会の会場は郊外の別荘で、朝霧翔真によると東條家が主催するもので、日常的な小さな集まりだから、行っても心配せず、普段通りにしていればいいと言われた。

二人が車から降りると、彼女は自然に朝霧翔真の腕に手を添えた。少し居心地が悪い以外は、特に問題はなかった。

会場に入ると、すぐに人々がグラスを持って朝霧翔真と話しに来た。さすが朝霧家だけあって、皆の言葉の端々には朝霧家との協力を望む気持ちが表れていた。

霧島咲姫を見たとき、明らかに驚いた様子だった。

しかし朝霧翔真は気にせず、彼女の肩を抱きながら一人ずつ紹介した。「こちらは私のパートナー、霧島咲姫さんです。」