第176章 右腕

霧島咲姫は神城連真の美しく波一つない後ろ姿を見つめ、心の底から大きな波動を感じていた。

一方、神城連真は車の中で当時のリビングの監視カメラをすべて確認し、早坂虹乃の言葉は一言も真実ではなかったことを知った。

彼の目には暗い影が宿っていた。

「社長、東條未煙を…」神城文弥が突然声を上げた。彼は目の前の男をよく理解していた。明らかに、彼はもう東條未煙を許容できなくなっていた。

いっそのこと彼女を神城氏から追い出してしまえばいいのではないか。

神城連真は疲れた様子で自分の額を軽く押さえ、最後に首を振って言った。「今一人追い出しても、その後には無数の人間が現れる。それよりも、この人物を目の届く範囲に置いて、お前がしっかりと彼女の一挙一動を監視した方がいい。」

この期間は本当に忙しすぎた。

一方、別荘にいた霧島咲姫は最終的に煌に発見されてしまった。彼は包帯で巻かれた咲姫の手を見て、目にすぐに涙を浮かべた。「ママ、怪我したの?」

霧島咲姫はちょうどその時本を読んでいたが、愛する息子の声を聞いて心が引き締まり、すぐに体を回して自分の手を隠そうとした。

しかし煌の鼻はとても敏感で、すぐに薄い薬の匂いを嗅ぎ取った。

「ママ、薬の匂いがするよ。だから今日は僕と遊んでくれなかったんだね。」彼は静かに側に歩み寄った。子供は寝ていたのかもしれないが、まさかこんなに観察力があるとは思わなかった。

彼は霧島咲姫の左手をしっかりと握り、目には心配の色が満ちていた。

彼のこの様子を見て、霧島咲姫の心はすぐに和らいだ。「大丈夫よ、何も問題ないわ。一週間ちょっとで良くなるから。」あの医者は当然優秀で、霧島咲姫はそれをよく理解していた。

一週間後、霧島咲姫は再び神城グループに戻った。バックアップがあったため、準備する必要のあるものはそれほど多くなかった。そして彼らは霧島咲姫の手が怪我をしていることを知らなかった。

最初に気づいたのは佳悦だった。彼女は霧島咲姫の右手に包帯が巻かれているのを見て驚いて叫んだ。「咲姫姉、手はどうしたの?」彼女は眉をしかめた。もしかして怪我をしたのだろうか?でも当時は大したことないと言っていたはずだが?