第169章 オフィスにも入れない

霧島咲姫はまさか自分が神城グループでこんなに人気者になるとは思ってもみなかった。

一条尭はそばで冗談を言った。「ほら、言っただろう。君はできるって。いつも謙虚すぎるんだよ。今じゃ神城グループの女性たちみんなが君を手本にしたいって言ってるらしいぞ。」

彼の言葉は真実で、霧島咲姫は隣に座って苦笑いするしかなかった。

神城グループに来てまだ半月も経っていないのに、霧島咲姫の評判はとても高くなっていた。

まず神城グループの若奥様という呼び名があること、そして自分の実力で研究機器を開発したことが理由だった。他の人が知らなければそれまでだが。

研究部が霧島咲姫を扱う様子を見れば、彼女が大きな貢献をしたことは明らかだった。

彼女は乱れた髪を前に寄せ、眉をしかめて言った。「尭兄、冗談はやめてください。私はただあなたの指示通りにやっただけです。」

これは事実だった。研究においてアイデアを出したのは一条尭だった。

結局、彼はこの分野で学術的な知識を持っていたのだから。

東條未煙はオフィスに座っていた。社長秘書という絶対的な地位を持ちながら、彼女の目には憎しみしかなかった。せっかく神城グループに入り込んだのに、社長室にさえ入れないとは思ってもみなかった。

神城連真の指示で、神城文弥と霧島咲姫以外は彼の許可なく入室できなかったからだ。

「東條姉、なぜ神城社長にコーヒーを持って行かないんですか？神城社長はそんなに厳しくないですよ。あの女が来る前は、私が直接入っていましたから。」秘書が傍らに立ち、手元の書類をめくりながら静かに言った。

そうだ、なぜこのまま手をこまねいているのだろう。

東條未煙は小さな鏡を取り出し、完璧なメイクを確認してから髪を整え、ヒップを揺らしながらオフィスへ向かった。

今回はノックせずに、ドアを押して直接入った。

彼女は笑みを浮かべて言った。「連真、まだ忙しい？」彼女は小声で尋ねた。まるで以前のことなど何も起きなかったかのように。

神城連真は彼女の声を聞いて、ゆっくりと顔を上げた。来訪者を見ると目に嫌悪感が閃いた。「なぜ入ってきた？」この言葉に東條未煙の笑顔は一瞬で凍りついた。