第173章 早坂虹乃が来る

霧島咲姫が神城家に戻ったとき、思いがけず早坂虹乃も神城邸にいた。

彼女は喉を鳴らし、横から立ち去ろうとしたが、結局早坂に見つかってしまい、嫌味たっぷりに言われた。「どうしたの？今じゃ私を見ても挨拶もしないの？」

咲姫の目に一瞬冷たい光が走った。

以前なら彼女は神城家に戻ることもなかっただろうが、神城淵司が自ら連絡してきて、しかもこれほど重要な件だったため、神城家のため、連真のために、無視するわけにはいかなかった。

霧島咲姫は一瞬体を硬直させた後、振り返って顔に無理やり笑みを浮かべた。「お母さん、こんにちは」

「誰があなたのお母さんよ？あなたがこんなことをしておいて、まだ私をそう呼ぶ勇気があるの？」

「連真があなたの会社のために、どれだけの損失を出したか知ってる？みんなが一ヶ月以上も苦労して獲得した契約よ。それなのに結果はどうなった？あなたのせいで、連真は契約の調印にさえ行けなかったのよ」

ここまで言うと、早坂虹乃の目には怒りが満ちていた。

彼女はわざわざ神城連真の仕事の時間を選んでいた。今頃は契約を救うために行っているはずだった。そして今、彼女はこの目の前の女をきちんと懲らしめようとしていた。

「奥様、怒らないでください。彼女も故意にやったわけではないでしょう」東條未煙がいつの間にかキッチンの方から出てきた。神城家には既に2、3年住んでいたので、ここのことは誰よりも熟知していた。

早坂虹乃は彼女を見ると、目が柔らかくなり、それ以上何も言わなかった。

「お姉さんは何も分からないかもしれないけど、きっと故意にこの契約を台無しにしたわけではないでしょう」東條未煙は咲姫に話しかけているようだったが、言葉の端々には、契約が彼女のせいで台無しになったことを暗に示していた。

霧島咲姫は心臓が胸まで上がるような思いだった。今日の雰囲気がおかしいと思ったら、連真が自分のために…

そう思うと、彼女は顔中に悔しさを浮かべ、説明しようとした。「お母さん、私が悪いんです。全部私のせいです。でも本当に故意じゃなかったんです」彼女は眉をひそめたが、説明すればするほど混乱していくように感じた。

東條未煙は彼女のそんな話し方を見て、口元に満足げな笑みを浮かべた。バカはバカだ。話せたところで何の意味がある？彼女の口はただの飾りに過ぎない。

「黙りなさい！」